心疾患合併妊娠
妊娠に伴う循環系の変化
循環血液量の変化
母体の循環血液量は妊娠中に増加します。
循環血液量は妊娠初期から増加しはじめ、妊娠20週以降は急速に増加し、妊娠34週頃がピークに達し、妊娠末期には非妊時に40~45%の増加がみられます。
この妊娠に伴う循環血液量の増加は、おもに胎児と胎盤系の血液を維持するための生理的な変化です。
心臓の変化
循環血液量の増加、心拍数の増加に対応するために、おもに左心室が肥大します。
妊娠末期には増大した子宮のため横隔膜が挙上され、心臓は左上方へ転位します。
心拍出量は妊娠12週頃から増量し、妊娠30~34週では非妊時の約40%増となり、その後減少します。
心拍数の変化
妊娠中心拍数は徐々に増加し、1分間10~20増し、80程度になりす。
血圧
循環血液量が著名に� ��加しているにもかかわらず、正常妊婦の血圧の変動は、妊娠中期にわずかに低下し、妊娠末期にやや上昇する程度です。これはエストロゲンなどの作用によって血管抵抗が低下しているためです。
心凝固能亢進
妊娠中は凝固因子の増加や凝固抑制因子の低下、線溶系の抑制が起こることが知られていますが、このために非妊時に比較して血栓塞栓症が増加しやすい。そのため、弁膜症患者には血栓症が増加しやすく、一方、治療用の抗凝固療法中の患者には血栓症と同時に大量出血しやすい状態にもなりやすい。特に,人工弁置換術後や心房細動を認める症例に
はリスクが高まる
分娩時の循環系の変化
循環血液量の変化
陣痛発作時血圧は上昇し、子宮収縮により静脈還流が増加するため心拍出量は約25%増加し、1回心拍出量は約35%増加します。
分娩第2期には努責により胸腔内圧が上昇するため、静脈還流は減少し、1回心拍出量は減少します。
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分娩後の循環系の変化
循環血液量の変化
分娩直後には静脈還流が増加するため心拍出量は一時増加しますが、1時間以内は分娩前より10~20%減少します。分娩後約5週間で、非妊時の循環動態に戻ります。
心疾患合併妊娠の概念
心疾患の頻度
心疾患には、先天性心疾患、リウマチ性心炎、高血圧性心疾患、虚血性心疾患、弁膜症などがあります。
内科合併妊娠が増加するなかで、心疾患合併妊娠も増加傾向にあります。
施設によって異なりますが、心疾患合併の頻度は全分娩の0.5~3%前後と考えられています。
心臓外科の進歩に伴って、リウマチ性後天性心疾患の全体に占める割合が減少し、逆に先天性心疾患の割合が増加しつつあります。
心疾患全般の予後の改善に伴い、妊娠可能および妊娠希望の心疾患をもつ女性は増えています。
心疾患合併妊娠は良好な経過をたどるものが多いのですが、他の合併症妊娠に比べると直接母子の命にかかわる場合があることから心疾患合併妊娠は適切な判断と管理が必要となります。
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病態生理
妊娠により母体では様々な生理的変化が出現します。
なかでも、循環器系変化は顕著で、循環血液量と心拍出量は妊娠の進行と伴に増加し、妊娠28~32週頃にはピークとなり、非妊娠時の約1.5倍の増加を示します。
正常妊娠ではこうした増加に対し、末梢血管抵抗が低下し、腎臓や子宮への血流量を増加させています。
実際、腎血流量は非妊娠時に比べ30%増加し、子宮血流量は10倍となります。
これらの循環変化は母体が順調に胎児を育んで行く上に必須のものではあるのですが、心疾患を合併した妊婦ではしばしば負担となる場合があります。
また、分娩中は子宮収縮により静脈環流量が増加し、第2期では努責による交感神経興奮により頻脈� �なり、心拍出量が増加します。したがって、分娩中は心疾患合併妊婦の症状が悪化する危険な時期といえます。
分娩後(産褥早期)、子宮は急速に収縮し静脈環流量が増加しますが、循環血液量は急には減少しないため、一過性に心負担は増加します。この心拍出量増加は、産後の利尿により循環血液量が減少するまで継続します。
産褥期に一過性に浮腫が増悪することがありますが、こうした循環器系変化のためと考えられる。
妊娠分娩が心疾患に与える影響
心疾患合併妊婦の合併症としては、心不全、脳血管障害、肺水腫、不整脈などがあります。
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妊娠中の心疾患の判定
心疾患の重症度判定
心疾患の重症度判定には、心機能分類による妊娠可否判定基準(New York Heart Assdolation HYHA)使われる場合が多い。
CalassⅠ:身体的活動に何らの制約もなく、心不全徴候は全くなく狭心痛も経験しない
CalassⅡ:身体的活動に若干の制約があり、安静時は快適であるが、日常的な身体活動で過度の疲労感、動悸、呼吸困難、狭心痛の形で不快感が発生する
CalassⅢ:身体的活動に著しい制約があり、安静時は快適であるが、軽度の身体的活動でも過度の疲労感、動悸、呼吸困難、狭心痛の形で不快感が発生する
CalassⅣ:いかなる身体的活動にも不快感が伴い、安静時にも心不全徴候や狭心痛が発生する。
判定基準
妊娠可否判定基準(New York Heart Assdolation HYHA)分類I度では母体死亡率はほぼ0%で妊娠継続に影響はありません。
一方、NYHA III、IV度や母体死亡率の高い疾患では、妊娠を許可するべきではなく、場合によっては人工妊娠中絶の適応となります。
心疾患合併の管理
妊娠初期の管理
妊娠3ヵ月までに心機能の評価として、心エコー、胸部レントゲン、心電図、動脈血分析などを行い、必要であれば入院しポータブル心電図などの精密検査が行われます。
妊娠中期の管理
○母体…妊娠30週にかけて循環血液量の増加、心拍出量の増加により、妊娠中最も心臓の負担が強くなる時期であるため再度心機能の評価がおこなわれ、必要があれば入院しベット上安静や減塩管理が行われます。
○胎児…先天性心疾患合併妊婦より出産した児に同様に先天性心疾患を合併する確立が通常の発生率よりも若干高いことが知られているため、両親いずれかに心疾患を有している場合には妊娠18~20週前後での胎児超音波検査において、特に先天性心疾患の有無に注意が払われます。
妊娠中の管理
生活活動の制限、労働は最小限とし、睡眠を十分にとり、食後の安静など毎日一定の休養とるよう指導がおこなわれます。
食事は心負荷の軽減のため、不必要な体重増加を避けるよう摂取カロリーに気をつけ、塩分制限を行い、高たんぱく食、貧血予防のために鉄分を多く含む食事を摂取するよう心がけるよう指導がおこなわれます。
風邪や尿路感染症などの感染症に気をつけ、症状があれば早めに医師に報告し、心労作を増すことによる急性心不全の防ぐ必要があります。
分娩前の管理
分娩予定日2~3週間前より入院させ、心身の安静を保ちます。
また、医師によっては分娩前より抗生物質を投与し亜急性細菌性心内膜炎予防がおこなわれます。
� ��娩中の管理
心疾患合併妊婦というだけで予定帝王切開をおこなうことは少なく、産科的適応に従って判断がなされます。
経膣分娩が原則ですが、産科的適応のあるものや大動脈縮窄症、高血圧心不全心疾患、脳梗塞の既往、大動脈瘤などがある場合は帝王切開がおこなわれます。
帝王切開となる場合は、循環動態の変化を最小限にとどめるため、硬膜外麻酔もしくは全身麻酔を選択されることが多い。
妊娠管理
①心機能評価(心電図、超音波、胸部X線検査などの検査)
少なくとも妊娠初期(妊娠継続の可否)と妊娠28~30週(分娩時期や方法の選択)頃には無症状であっても評価しておく必要があります。
②安静
非妊娠時、運動や生活に制限がない場合でも、妊娠中は負担が増えるため安静に心掛ける必要が あります。
③食事
貧血は心臓への負担を増すため、鉄分やミネラル、ビタミンの摂取に注意し規則正しい食生活に心がける必要があります。
高血圧に対しては極端な塩分制限は行なわない。
分娩管理
①経腟分娩を原則とする。
母体の心機能が悪化する場合は、児の成熟や分娩の進行にかかわらず、帝王切開を選択することがあります。しかし、開腹手術やそれに伴う麻酔手技は母体循環に負担となり、切迫した症状がなければ経腟分娩が選択されます。
②無痛分娩(和痛分娩)
硬膜外麻酔や鎮静鎮痛剤を用い、疼痛による過度の循環変化を抑制されます。ただし、硬膜外麻酔は交感神経遮断による末梢血管抵抗低下(血管拡張)により心臓への静脈環流量が減少するため、肺高血圧や大動脈狭窄では負担を増大します。
③吸引・鉗子分娩
分娩第2期の短縮と努責(いきみ)を軽くするために行なわれることがあります。
④分娩中の母体心機能モニター
心� �図、酸素飽和度(サチュレーション)モニターはもとより、場合によっては中心静脈圧をモニターされます。
⑤薬物療法
細菌性心内膜炎を予防するため分娩前(中)より抗生剤投与をおこなう。
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